発言集団「きづな」

10/24/2014

憲法改正問題と天皇 「発言集団」代表・中島英迪

Filed under: 未分類 — admin @ 5:03 AM

 日本は天皇を中心とする神の国である。したがつて国民が「敬神崇祖」の心を持ち、天皇陛下に「感謝報恩」のまごころを捧げることは、好ましい自然の情である。
 ところで、国体問題で最も難しいことは、天皇を尊崇する人の思想が、陛下のお考へと異なる時、しかも真つ向から逆で相反する時に、どうすれば良いのかといふ点である。
 例へば、平成十六年頃から旺んになつてきた皇位継承論争において、男系維持論と女系容認論とが対立してきたが、もし自分が男系維持論者だとして、陛下が女系容認の考へを持つてをられる場合、あるいは逆に自分が女系容認論者だとして、陛下が男系維持の考へを持つてをられる場合にどうするか、といふ難問である。
 その際、一般によく言はれてきたやうに、男系論者が「陛下も男系論者に決まつてゐる」とか、女系論者が「陛下は絶対女系論だ」などといつた主観的信念の話ではない。事実として自分の信念と、陛下のお考へが真逆である場合にどうするか、といふ問題なのである。

 この場合、我々の取り得る態度は、大きく三通りに分かれるであらう。
1)天皇の考へかどうか疑はしい。意図的、作為的に第三者が流した言説だらうから無視する。
2)陛下は、さうお考へかも知れないが、やはり自分は信念を貫く。
3)陛下の仰ることだから深い叡智に導かれてゐるに違ひないため、自分の考へを改める。
 さて、いま皇位継承論を例に挙げたが、本稿の主題は憲法改正論である。周知のやうに安倍政権は今国会で、集団的自衛権の行使を可能にすべく、解釈改憲を目指してゐるが、首相の最終目的は、憲法第96条の改正発議の要件を「3分の2」から「2分の1」に改正することである。まづこれを片付け、その後に個々の条項を改正しようと考へてゐる。

 このやうな政治的状況下で、今上陛下は近頃の会見で日本国憲法に言及された。昨年12月18日に、誕生日会見でかう仰つたのである。
「戦後、連合国軍の占領下にあつた日本は、平和と民主主義を守るべき大切なものとして日本国憲法を作り、様々な改革を行つて今日の日本を築きました。戦争で荒廃した国土を立て直し、かつ、改善していくために、当時の我が国の人々の払つた努力に対し深い感謝の気持ちを抱いてゐます。また、当時の知日派の米国人の努力も忘れてはならないことと思ひます。」
 このご発言について、何も改正に反対の趣意ではなく、たゞ憲法を尊重する気持ちをお述べになつたもので、即位の際「日本国憲法を守り」と仰つたのと同様、何事も法に基づいてとの遵法精神の大切さを表明されたに過ぎないと解する人もあるかも知れない。憲法には改正条項があるのだから、それも含めての尊重であつて、改正反対のご意見ではないといふわけである。
 それにしても「平和と民主主義を守るべき大切なものとして」とか、「我が国の人々の払つた努力に対し深い感謝の気持ち」や、「知日派の米国人の協力も忘れてはならない」の文言は、いはゆる護憲派を力づける響きがあり、日本国憲法を米軍の押しつけで正当性がないとする改憲論に与しないと受取ることができよう。

 しかも、皇后陛下も、昨年10月20日の誕生日にあたり発表された文章で、明治憲法公布前に民間で作られた「五日市憲法草案」にふれ、基本的人権の尊重や法の下の平等、教育の自由の保障、言論・信教の自由などが盛り込まれてゐたことに関して、「長い鎖国を経た19世紀末の日本で、市井の人々の間に育つていた民権意識を記録するものとして、世界でも珍しい文化遺産ではないかと思います」と述べてをられる。基本的人権の尊重は日本国民の間にも存在してゐたとのご指摘であるが、これも日本国憲法を高く評価する護憲論者を励ます文章と解されるのではないか。
 そして、今年の2月21日、皇太子殿下も54歳の誕生日を前にして、皇室の活動と政治の関はりについて、次のやうに発言された。
「今日の日本は、戦後、日本国憲法を基礎として築き上げられ、現在、我が国は平和と繁栄を享受してをります。今後とも憲法を遵守する立場に立つて必要な助言を得ながら事に当たつていくことが大切だと考えてをります。」
 この皇太子会見について、皇太子誕生日の2月23日に朝日新聞が「皇太子さま54歳『今後とも憲法を順守する立場で』」の見出しで歓迎の意を示してゐるやうに、改憲派にとつては芳しからぬ内容となつてゐる。

 そこで、もし内廷が一致して、日本国憲法改正に反対だとすれば、皇帝尊崇の改憲論者はどのやうな姿勢をとるべきか、が大きな問題なのである。
 先に記した分類に従へば、(1)に当るものは、皇室の側近にゐる人々が護憲論になるやうに誘導してゐるのだらうから、無視して気にしない、といふ姿勢が考へられる。(2)に対応するものとしては、両陛下や皇太子はさうお考へかも知れないが、それは戦後の時代精神に追従されてゐるのだから、改憲論の信念は変へない、といふことになる。そして、(3)の立場なら、これ迄自分は改憲派であつたが、今後は護憲の意義も考へ、陛下や殿下に習ふ、といふ態度にならう。

 読者が改憲派で皇室を敬愛する人間だとすれば、如何なる選択をするであらうか?かつて2・26事件で天皇の為に決起した青年将校たちは、天皇によつて掃討されるといふ悲劇を味はつた。天皇国・日本に課せられた難題を軽く見てはなるまい。
(「きづな」平成26年4月号より)

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